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毎年7月3日は『なみだの日』

アフターコロナの世界で気をつけたい「ライフスタイルとドライアイ」

最新の疫学研究をベースにしたメディアセミナーを開催

ドライアイ研究会(世話人代表:横井則彦 京都府立医科大学)は7月3日を『なみだの日』(日本記念日協会認定)と制定し、目の健康に重要な「涙(なみだ)」の正しい知識を伝える啓発活動を行っています。その一環として2024年6月21日、「ライフスタイルとドライアイ」をテーマに、メディア向けのオンラインセミナーを開催しました。

国内の推定患者数が2200万人に達するとされるドライアイには、スマートフォンの利用時間の増加や睡眠不足など、日常のライフスタイルが深く関係していることがわかっています。世界中の生活様式を大きく変えたCOVID-19パンデミックの最中には、ドライアイ有病率が増加したという報告もあります。

メディアセミナーでは、まず京都府立医科大学眼科の小室青先生に疾患としてのドライアイの特徴を臨床の観点から解説していただき、ついで慶應義塾大学眼科の羽入田明子先生に最新の疫学研究から見るドライアイに関係深いライフスタイルについて語っていただきました。

『なみだの日』ホームページhttp://namida-labo.jp/

2024年版冊子{PDF}

■ドライアイは、乾くだけじゃない!あなたの目は大丈夫?(京都府立医科大学眼科学教室 小室青先生)

 

我が国におけるドライアイ患者数は約2200万人と推定されており、高齢化、ライフスタイル、生活環境に関連した危険因子の増加に伴い、患者数は増加の一途をたどっているといわれています。2016年にドライアイ研究会によって提唱された定義では、ドライアイは、「さまざまな要因により涙液の安定性が低下する疾患で、目の不快感や視機能異常を生じ、目の表面の障害を伴うことがある」と定義されています。健康な目は、まばたきをした後10秒以上開けていることができますが、ドライアイでは目を開け続けると目の表面に涙に覆われない部分ができ、目を開けていられなくなってしまいます。目を開けたまま10秒間我慢できなければ、ドライアイの疑いがあります。

 

ドライアイでは、涙が不安定で目の表面で広がりにくいため、涙がはじけて目の表面がいびつになったり、目の表面が露出してキズができたりすることで、目が乾く、ものが見にくい、目が疲れるといったさまざまな症状が生じます。京都府立医大のドライアイ患者87人でドライアイの自覚症状(代表的な12項目)とその程度を調べたところ、最も強かったのは「目が疲れる」の症状で、「目が乾く」「目が重い」が次に強い症状でした。さらに「目がかすむ」「まぶしい」という見え方に関する症状や「目がゴロゴロする」「目が痛い」といった痛みに関する症状が見られました。ドライアイの診断では、涙を色素で染めて、開け続けた時に、涙の膜が壊れて(breakup)目の表面の露出するまでの時間を「秒」で測ります。これをBUT(breakup time=涙液層破壊時間)といいます。BUTが5秒以下で自覚症状があるとドライアイと診断されます。

 

さらに、breakupの場所や形(breakup pattern)によって、ドライアイは、(1)涙の量が少ないタイプ(涙液減少型)、(2)涙の蒸発が多いタイプ(蒸発亢進型)、(3)涙のノリが悪いタイプ(水濡れ性低下型)に大別でき、(2)と(3)を「BUT短縮型ドライアイ」と呼んでいます。目の表面にキズがある涙液減少型ドライアイと、キズがないBUT短縮型ドライアイは、DECS-J(Dry Eye Cross-sectional Study in Japan)という研究によって両者の自覚的な重症度やQOL(生活の質)への影響は同程度であることがと分かっています。

 

オフィスワーカー561人を対象とした研究(Osaka study)では、約65%がドライアイの疑いと診断され、その8割がBUT短縮型ドライアイでした。また、この研究の一環として、VDT(visual display terminal)作業の時間が長いと、涙液中のムチンと呼ばれる粘液成分が少なくなり目が疲れやすくなることや、30歳以上の女性でVDT作業時間が8時間以上の人にドライアイのリスクが高いといったVDT作業に関連した危険因子が分かりました。さらに、ドライアイでない人はドライアイである人に比べて運動習慣のある人が多く、メタボリックシンドローム(メタボ)がある人はメタボでない人に比べて有意に涙が少ないことや、ドライアイの人は幸福度や睡眠の質が低いといったライフスタイルに関連する危険因子も明らかにされました。

 

コロナ禍では、ライフスタイルが急激、かつ大きく変わりました。たとえば、VDT作業や座位時間の増加、運動不足や睡眠障害、社会的孤立やストレス、通院の中断などです。こうした変化により、ドライアイの有病率は約60%とコロナ禍前と比べて非常に高くなったという報告があります。2023年5月の5類移行後もリモートワークが、コロナ禍前の水準まで減るとは考えられず、ドライアイのリスクは依然高い可能性があります。さらに、タブレットやスマートフォンの普及によって、子供たちにもドライアイのリスクが広がってきています。

 

6~15歳の小児を対象にした研究では、スマートフォンゲームを1時間するとまばたきの回数が半分以下に減少し、ドライアイ症状が悪化すること、7~12歳の小学生を対象にした研究では、スマートフォンの使用がドライアイと強く関連し、ドライアイの子供たちでスマートフォンの使用を4週間中止したところ、自覚症状と臨床所見の両方が改善し、さらに屋外での活動がドライアイに対する予防効果があることが示されています。このように、ライフスタイルとドライアイとの関連が明らかになってきています。これまで、ドライアイの治療としては、点眼治療や涙の出口である涙点をふさぐ涙点プラグの挿入などの眼局所の治療と、VDT作業中の休息、加湿、コンタクトレンズ装用時間の短縮、ドライアイ用眼鏡の使用、パソコンの画面は目より低い位置する、エアコンの風が直接目に当たらないようにするといった環境面の改善からのアプローチが行われてきました。しかし、これからは運動や睡眠など、ライフスタイルの改善からのアプローチも選択肢の一つに加えていく必要があるのではないかと考えています。

■疫学研究から探るライフスタイルディジーズとしてのドライアイ(慶應義塾大学医学部眼科学教室 羽入田明子先生)

 

最近、我々の食生活習慣や環境要因が様々な病気の発症、ひいては死亡率にまで関連することが分かってきています。生活習慣によって誘引されやすい病気は、ライフスタイルディジーズ(lifestyle diseases)と総称されます。これは行動変容を起こすことで比較的簡単に介入することができるため、公衆衛生学的にも非常に注目されています。昨今の世界的な高齢化に伴い、加齢が原因の視覚障害患者は年々増加傾向にあります。加齢に伴って発症する眼疾患の代表例がドライアイで、高齢化とともに世界の有病率はどんどん上がっています。またドライアイは労働生産性の著しい低下を引き起こします。中等度から高度のドライアイ症状を持つ人は、年間130万円に相当する労働生産性の低下に匹敵すると推計され、これは最低賃金でのフルタイム従業者の労働力と同程度になります。慢性眼疾患に対する予防策として、ライフスタイルの変容は重要です。今回は、ライフスタイルの中でも運動と睡眠について詳しく解説します。

 

まず、運動とドライアイに関して、JPHC-NEXT(次世代多目的コホート研究)に参画した約10万人を対象に実施した研究を紹介します。JPHC-NEXTは日本人の生活習慣病のリスク因子を明らかにするため、2011年に始まった前向きコホート研究で、調査は国立がん研究センターが中心となり、全国7県で実施されています。40~74歳の男女11万5385人が参加し、2011~2016年のベースライン調査の後、5年ごとに生活習慣や環境要因に関するアンケート調査などを実施しています。

 

ベースライン調査で身体活動量・座位時間・ディスプレイ視聴時間・ドライアイに関する質問項目に回答のあった約10万人のうち、ドライアイの有病者は2万5234人でした。男女別の有病率は男性17.6%、女性30.6%で、男女ともに身体活動量が上がるほどVDT作業時間や座位時間が少ない傾向があり、ドライアイの有病率は優位に下がる傾向が見られました。一方、座位時間やディスプレイ視聴時間とドライアイは、統計学的に有意な正の関連がありました。

 

今回の研究から、日本人の一般的な集団において、身体活動量の低下、座位時間、ディスプレイ視聴時間の延長はドライアイのリスク因子になり得ることが示唆されました。さらに女性では、座位時間やVDT視聴時間が長い人ほど、運動によるドライアイの有病率を下げる効果が期待できる可能性も示されたので、こまめな運動をライフスタイルに取り入れてもらうことが重要です。続いて、睡眠についてです。日本人はOECD(経済協力開発機構)諸国の中でも平均睡眠時間が短く、睡眠不足は深刻な社会問題です。ドライアイは睡眠不足が顕著なアジア地域に多い疾患で、睡眠状態の悪化がドライアイのリスクになるのではないかと考え、今回は睡眠を質と量の二つに分けて多角的に検証することにしました。

 

前述のJPHC-NEXTの参加者を対象とし、最終的には睡眠やドライアイに関するアンケートに回答していない人やうつ病の既往がある人を除いた10万6282人を解析しました。 対象者のうち、2万5864人にドライアイがあり、睡眠時間が短いグループでは、睡眠時間が1日7~8時間のグループと比べて、寝付きが悪い、眠りが浅い、寝起きが悪いといった頻度が高く、睡眠の質が低下する傾向がありました。また、こうした睡眠の質の低下とドライアイは、統計学的に有意な正の関連がありました。週にほぼ毎日、睡眠の質が悪いことを自覚する人は、全く自覚しない人と比べて2倍以上ドライアイの有病率が高く、睡眠時間が短く質が悪いグループは、相乗的にドライアイの有病率が高いという結果になりました。

 

この研究から、睡眠時間が短いと乾燥した環境にさらされる時間が長く、性ホルモン機能の低下によって涙液の分泌量が減り、ドライアイを誘引した可能性も考えられます。また、ドライアイの症状である眼刺激感や異物感は神経因性疼痛として捉えることもでき、睡眠障害は精神状態にも影響を及ぼすため、より痛みを感じやすくなっている可能性は否定できません。日本人の集団において、睡眠の時間と質の低下はいずれもドライアイのリスク因子となる可能性が示唆されました。

■涙を増やすための7か条!!

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